丸重城の人々~前編~
「はぁはぁ…」
取ってきちゃった……。
なにやってんだろ…私。
二人には何も関係ないのに。
「返さなきゃ…」
二人が帰って来る前に、元に戻さないといけない。

また部屋を出て、大翔達の部屋に向かう。

「広子さん、ごちそうさまでした!」
「ごちそうさん!」

ヤバい…出てきた。
「あれ?早苗さん?大丈夫ですか?体調悪いって聞いたんですが…何かお手伝い━━━」
「結構です!!」
柚希の気遣いに、腹が立つ。
つい、声を荒げてしまった。
「え…あ…ごめんなさい……」
「おい!お前、そんな言い方ないだろ?柚は心配して━━━」
「いいですよね?柚希さんは。
病気だから大翔さんや中也さんにこんなに愛されて……。
私と代わってほしいくらいです」
「え……」

ダン━━━━!!!
気づくと、大翔に壁に押し付けられていた。
いわゆる、壁ドンだ。
「お前…それ本気で言ってんのかよ!?」
「え?」
「お前、柚のこと何にも知らないくせに、柚の苦しみもわからないくせに、よくそんなこと言えたな……」
「あの…」
大翔のあまりの表情に、言い様のない恐怖で足がガクガク震える、早苗。
「お前は普通に生活できることの幸せが、わかってない。
辛いことも苦しいこともあっても、その分楽しいことも嬉しいことも、当たり前に体験できるじゃねぇか!
柚にはそれがしたくてもできねぇんだぞ!
柚にとって、一人で外に出かけることは、猛獣の中に一人取り残された気分なんだ。
身体震えて、息切れして、助けてほしくても誰もいない。猛獣に食い殺される恐怖だけしかそこにはないんだ。
お前にその気持ちわかんのかよ!」
「それにさ…お前、柚希に助けてもらっておいて、よくそんなこと言えたな?」
中也も口を挟む。
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