生きなさい<短編>
悪い予感は
だいたい当たるものだ。
泣き崩れていた女の人は
彼の奥さんだった。
彼は結婚していた。
私は結婚していた事実よりも
彼の奥さんに抱かれている赤ん坊のことで頭がいっぱいだった。
1歳にも満たない赤ん坊‥
私と付き合っている最中に
あの子は産まれたことになる。
それは
彼と、彼の奥さんが愛し合っていた証だった。
もう奥さんへの愛情は冷めていた
そんな逃げ道もなくした。
もう涙は出なかった。
所々 記憶を失った私は
彼と出会ってやっと取り戻したたくさんの感情をいっきに失くした。
壇上には
数え切れないほどの菊の花。
私は思い出していた。
あの日、机の真ん中に飾られた
一輪の菊の花を。
"死ね"
一輪の菊の花が
そう言っているように見えた
あの日のことを。
こんな未来しかないなら
あの日、死んでおけばよかった。