○●雨色ドレス●○
健太、このままでいいのか?
 
だってあいつ多分いや絶対に触ってた。いや、もし本当に触っていなかったらどうしよう。面倒に巻き込まれるのはイヤだし、腹減ったから早く家に帰って飯食って……
 
 
――違うだろ。
 
触ってた触ってないじゃなくて、今僕が男としてするべき行動はただ一つ。
 
「おっ、おい!」
 
緊張のあまり、声が裏返ってしまった。


僕は、今まで右を向けと言われれば右を向いて、左に走れと言われれば何を疑うことなく左に走っていた。それが善でも悪でもその度にそれが“正義”だと思いこんでいた。
 
だけど今初めて僕は自分で足を進め、腕を伸ばした。
 
気のせいかもしれない。ただ、奴が一瞬泣いていたように見えたから。
 
僕はクソオヤジの汗臭いシャツを掴んだ。
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