○●雨色ドレス●○
「あんだお前は」
 
中年男は僕よりも10センチくらい上から眼飛ばしてきた。
 
僕の脳裏にダニーキャットのファイティングポーズが映る。こないだ雑誌に載ってた新作のTシャツだ。それを真似ようと拳を握ろうとするものの、全身が震えあがり、両腕がちっともあがらない。
 
 
「あの……僕……みっ、みっ、みまっ」
 
「ああ!? 何言ってんだお前」
 
中年男のバカでかくなる声量に伴って僕の背中と声は丸く、小さくなっていく。
 
なぁダニーキャット
 
やっぱり僕には無理だったんだよな。
 
正義のヒーローだなんて、きっと幻想。早く「ごめんなさい、なんでもないです」っていって三鷹で降りよう。そして便所に駆け込んで、次の次の電車に乗って何食わぬ顔で日野に……帰ろう。

 
 
「ごっ、ごめ」
 
僕は、先の作戦を決行する為に、頭をゆっくりと下げた。視界には自分と中年男、リーマン達の革靴、そして汚い床が見える。
 
 
ゴメンナサイ!
 
 
ドゴッ、ドサッ。
 
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