○●雨色ドレス●○
「いやぁー助かりました。えー、お名前は上田健太さんですね」
 
「あの……」
 
「最近ね、中央線に痴漢が多発してたんです。いやぁ、本当にありがとうございます。何でも頭突きで犯人を倒したとか! いや私もね、学生時代はラグビーをやってましてね。って言いましても走ることしか頭にない――」
 
「あの!」
 
壊れたおしゃべり人形のごとく、ペラペラとしゃべりまくる駅員を二文字で静めるには、それなりの腹筋と肺活量が必要だった。
 
あの後僕は、気絶した男と共に三鷹駅の駅長室へ連行された。どうやらこの中年男、痴漢の常習犯だったらしく、なかなか現行犯で捕まえることが出来ずに手こずっていたようだ。カバンの中にあったあのいかがわしい写真も少女に金を払って撮らせたものらしく、僕はこの“腐れ日本”の現状を直に受け、気分を悪くしていた。
 
 
しかしだ
 
今回のこの事件、僕だけの手柄じゃない。
 
あのギャル女はいつの間にか姿をくらましていた。
 
その事をおしゃべり駅員に告げると、その子とは知り合いなのか、と聞かれ、僕はすごい勢いで首を横に振った。
 
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