○●雨色ドレス●○
自動ドアが開き、一歩入る。
 
「いらっしゃいませー」
 
「…………」
 
そして、閉まりきる前に三歩下がった。
 
「ありがとうございましたー」
 
 
「……えっと、あれ、おっかしいな。疲れてるのかな僕」
 

 
まるで自分の家とお隣さんをうっかり間違えてしまった時のように、素早く店を出た。
 
もう一度よく、レジに立っている女を見る。悪趣味な色彩センスの制服と、店内。
 
そして真新しいコンビニの看板を見る。入り口横には新装開店の旗がユラユラと揺れていて。
 
『ケンちゃんマート』
 
暗闇の中、不気味に光るその看板と、店内から漏れる蛍光灯に照らされて焦る僕。肩からバッグがずれ落ちた。
 
「あらケンちゃん。わざわざ迎えに来てくれたの?」
 
この世で僕を“ケンちゃん”と呼ぶ女は唯一無二
 
あいつだけだ。

自動ドアから出てきたのは、顔文字センスがイマイチな僕の母ちゃんだった。
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