○●雨色ドレス●○
「ほらこれ見てー! 新商品のポンポンライオン。母ちゃんのリスペクト商品よ」
 
従業員休憩室には、母ちゃんと父ちゃんの結婚写真を始め、壮絶なナリソメを物語る(あまり詳しく知りたくない代物の)数々の写真、写真、写真。その脇には、僕の赤ちゃん時代の写真が申し訳なさそうに貼られていた。
 
よだれをだらしなく垂らして、怪獣の頭にかじりついてるわんぱくな写真だ。
 
「あの、とりあえずただいま」
 
僕は丁重に挨拶をした。親しき仲にも礼儀ありだし。
 
「ウフフ、母ちゃんね、一度コンビニ屋さんをやってみたかったんだよー」
 
「……そうですかー」
 
まあ一番気になりかつ、突っ込むべき課題だ。おそらくこのコンビニ『ケンチャンマート』の由来だって、頭が弱ったゴリラでも分かる単純明解なものだ。
 
僕はまず何から突っ込みを入れるべきなのかわからずに、プチパニックに陥っていた。
 
「コンビニ屋って……なんでまた急に。てかもしかしてもしかすると母ちゃんが店長?」
 
「いや、母ちゃんはただのパートさ」
 
ほっ……。なーんだ、てっきりうちのバカ夫妻が貯金はたいてコンビニなんかを始めたのかと。残念だなゴリラ。あいにくこのコンビニの名前の由来はただの偶然で
 
「店長は俺だぜ」
 
従業員休憩室に入ってきたのは、またまた悪趣味な制服を着た僕の父ちゃんだったとさ。
 
おしまい。ちゃんちゃん。
 
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