○●雨色ドレス●○
「ケンちゃーん。ご飯よお」
 
6時半に母ちゃんの声で起こされた。今日はゆっくり寝る予定だったのにい。
 
「そっか、今実家にいるんだっけ」
 
部屋も、二年前に出て行った時と全く同じ状態にしてくれていた。(つうか放置されてただけか?!)
 
淡いブルーのベッドの上で、フーンと伸びをする。壁や天井には、ダニーキャットやら当時好きだったアーティストのポスターがテトリスみたいに貼られていて、朝日に照らされたそいつらは僕に、「おはよーさん」と片手を振った。
 
僕が再び枕に顔をうずめ、二度寝の旅へ出発しようとした時だった。
 
「おっ、この匂いは……味噌汁!」
 
学校の寮にいた頃は、朝はほとんど食べていなかった。食べたとしても、ニューデイズの菓子パン一個。
 
久しぶりに嗅ぐ味噌汁の匂いは、昔とちっとも変わっていない“母ちゃんの味”だ。
 
ふむふむ、今日はなめことネギかな。
 
 
 
 
僕は、まだ血が回りきっていない頭をぐるりと回し、あくびを吐きながらすたたんと一階へ降りた。
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