○●雨色ドレス●○

「ケンちゃん確かワカメとネギが一番好きだったのよねぇ」
 
母ちゃんは両手でヤカンを持ち、危なっかしい手つきでポットにお湯を注いでいる。
 
「うん。よく覚えてたね」
 
「当たり前じゃない。親子なんだもの。ウフフっウフフフフ、アハハハハハ」
 
「うああ、母ちゃん、笑いすぎ! お湯こぼれてるから! 熱っっ! ヤカン持って笑うの禁止ね!」
 
「あはは、ごめーん。なんだか楽しくなっちゃってー。さあさっさと味噌汁飲んで仕事の準備しちゃいましょ」
 
 
母ちゃんはそう言うと、ネギワカメ味の味噌汁を手にとり、幸せそうにすすった。

結局僕は、インスタント味噌汁を計9パックも食わされた。(母ちゃんが無計画にお湯を注いだせいで)
 
いまは味噌汁の“み”の字も聞きたくは、無い。
 
だけど、「こういう朝食もたまにはいいかな」って許してる僕もいた。
 
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