○●雨色ドレス●○
昨日泣く泣く出した退学届けを思い出す。
 
ぜーんぶ水の泡。溶けてしまった。
 
 
「帰ろっかなあ、日野に」
 
携帯のディスプレイには、僕の大好きなダニーキャットが、両手を叩いて笑い狂ってる。
 
 
「お前まで僕を笑うのかよ……ははっ、母ちゃんどんな顔すんだろなぁ。キレるかな。泣くかな。呆れて何も言わないのかな」
 
勿論、僕の横にも前にも後ろにも上空にも“連れ”はいない。周りから見れば紺色の横線とかが背後についちゃって(ほら、よく漫画とかで出てくるアレね)ブツブツ独り言を言ってる怪しい奴にしか見えないよな。
 
 
アドレス帳から二年ぶりに目に入るのは実家の二文字。去年の正月に帰っただけで、全然顔合わせてないし、親孝行だってしてないよ。
 
むしろ今の僕が戻ったって、ただの親不孝以外の何者でもないよな。
 
でももう学校の寮も出なきゃいけないし、バイトだって先月クビになって今月だって面接三回も失敗してる。
 
 
仕方ないよな。はぁ。
 
僕は深いため息をはきながら、携帯の通話ボタンをおそるおそる押した。
< 4 / 97 >

この作品をシェア

pagetop