○●雨色ドレス●○
「オニーさん、ハラへってるマスか?」
 
遂に僕も幻聴が聞こえるようになってしまったのか。カタコト日本語が、僕に「腹は減っているのか」とたずねてきたよ。さぁ大変。
 
「オニーさん、おいしいケバブあるよ。イマならハンガクよ!」
 
僕は狐につままれ覚悟で後ろを振り向く。ああもう重傷だ。大変、大変。
 
遂に僕は幻覚まで見えてしまうようになった。僕のスニーカーと同じ色した褐色の肌のヒゲモジャ外人が、美しく輝く歯をちら見せし、超スマイルで僕を誘う。しかもケバブが半額だと!?
 
全く意味が分からないじゃないか!
 
しかし僕はすぐにタバコの火を消すことになった。
 
何故かって?
そう、それは匂いだ。
 
チキンとオニオンソースの香ばしいかおり……これは夢でも幻でもない。
 
リアルだ。
 
僕の腹が万歳三唱をする。
 
ヒゲモジャが「あっち」と指差した先には、黄色の車型屋台とハイセンスな看板。そして、ケバブを物凄い勢いで食らう女が立っていた。
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