○●雨色ドレス●○
女は僕と同じか数センチ高いくらいのスレンダーな出で立ち。

七分袖の白いシャツにダメージデニム、赤いスニーカーと、いたってシンプルな格好だった。
 
しかし黒のボサボサ頭とケバブのいい食いっぷりを見ると、ただ者ではない……下手したらこいつ新人ホームレスなのか?ってくらい彼女の全身から殺気が溢れ立っていた。
 
「ごっそーさん!」
 
彼女はそう言うと、僕とは目も合わさずに横を通り過ぎ、特等席へドカンと腰を下ろした。
 
「オニーさんもケバブ買うマスか? オススメ、このテリヤキ&マヨネーズスペシャル。二個で500えんデス」
 
僕は、一個売りはしてないのかと尋ねると、ヒゲモジャは首を横に振った。(半額ってそう言うことか……まんまと騙されたよ!)
 
確かに二個で500円なら半額だ。しかしこれって言わば残り物?
 
残り物には福がある?
 
そう信じようか。
 
仕方無く僕は「じゃあそれで」と言って、1000円札を渡し、ヒゲモジャからケバブ二個と500円玉を受け取った。
 
 
そしてあの女に奪われてしまった特等席を奪還する勇気もない僕は、そこから真向かいのベンチに、渋々腰を下ろした。
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