○●雨色ドレス●○
僕が勝手に作り上げたこの、凍てつく沈黙時間。

なぜ僕が見ず知らずの女を、こうも気にとめているのか。はい、わかりません。

知ってる人いたら、今すぐ連絡ください!

この桜山公園の噴水は、時間になると水を出さなくなる。そして余計に辺りは静かになり、僕の緊迫感に拍車をかける。

勿論、彼女はそんな僕を気にもとめず、(下手すりゃ存在すら認識されていないかも)黙々とスケッチブックを片手にペンを走らせている。

彼女は、さっきから何を書いているんだろうか。
風景画?
(こんな夕暮れに?)
自画像?
(まさかのナルシー?)
漫画家志望?
(僕も一時期憧れてました)

気になる気になる気になる気になるあー、気になる!

腕時計を覗くと、休憩時間は残り20分弱となっていた。

ここを10分前には出なきゃいけないから、あと10分……

だっ、だめだ。なんてチキン野郎なんだ。何故か震えあがる足と、脈が速くなる心臓。

これじゃあまるで、ヘビに睨まれてもいないのに失神寸前のカエルだ。

だけどこれが人間の性なのか? 恐いもの見たさの矛盾した性。

パラパラとスケッチブックをめくる彼女。

気になる気になる気になる気になる!



臆病チキンでビビリーカエルな僕が最後のケバブを口に放り込んだ時、肌を突き破るような強風が噴水前を横切った。
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