○●雨色ドレス●○
あの後、休憩から帰った僕は、そりゃもうミスの連発でして。

目の前がフラフラしてきて、熱を測ったら38度5分と、低体温の僕にはちとイタい数字。やむを得ずの、二時間早いご帰宅となった。

「ごちそうさま」

「おっ、どうした健太。食欲ないなぁ。初日で疲れたか?」

父ちゃんがグラスにビールを注ぎながら言う。


ポンポンライオン他、パン、オニギリ、そしてインスタント味噌汁らが、所狭しとダイニングテーブルの上に並べられている、その山の向こうから。

「う、うんちょっと熱っぽくてね」

「ははっ、夏風邪か。いっぱい食べてお腹温かくして寝るんだぞ!」

まるでなんの緊張感もない声で父ちゃんは言う。父ちゃんは僕と違って頑丈だ。心も体も。あっ、毛根だけは華奢で弱ってるみたいだけど。

昔と比べて、腕も脚も細くなったし、サラリーマン時代後期のストレスからだろうか、髪の毛だって……


ああこれってまさか遺伝とかないよね?

あれ?おじいちゃん髪の毛あったっけ?

あれは髪の毛か?
ヒゲか?




……僕はハゲでヒゲになるのか?


そんな自分を痛めつけるような妄想を巡らせながら、僕は鮭オニギリを麦茶で流し込んだ。

そして、薬も飲まずにさっさと自分の部屋へもぐった。
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