○●雨色ドレス●○
「あっ、もしもし母ちゃん? 俺だよおれ、――」
 
プツっ。ツーツーツー……。
 
 
あれ? 切られた。おっかしいなあ。番号間違えたかな?
 
いや、合ってるよなあ。下四桁は“8083”(八百屋さん)だし。
 
うち八百屋じゃないけどね。
 
もっかいかけてみるか。
 
「もしもし、母ちゃん? 俺だよ。健太だよ」
 
「……お前何者だ」
 
「あれ? その声はもしかして父ちゃん?」
 
なんで父ちゃんがうちに?今日は平日だし、まだ夕方前だから会社にいるはずだろ。有給かなんかかな。
 
「いっ、言わんぞ! 個人情報は一切な!」
 
父ちゃんは何かに怯えるように電話越しでタンカを切った。
 
その奥からはお昼2時からやっているワイドショー番組の独特なメロディーが聞こえてくる。あー、恐らくまた影響されたってわけか。
 
「あのさぁ、父ちゃん。すぐに影響されるなってあれほど言っただろ? どうせまた、お昼のワイドショーの……」
 
「なっ、何故今お昼のワイドショーを見ているのを知ってるんだ!? 貴様……まさか盗聴か? とととトクハラさんが言ってたぞ!」
 
ちなみに“トクハラさん”とは、お昼のワイドショーの毒舌おっさんコメンテーター。見た目も性格もファッションセンスも、僕はあまり好きじゃない。
 
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