○●雨色ドレス●○
そう、いわゆる、チバは僕の理想だった。

チビで志も中途半端な僕とは真逆の言わば、ヒーロー。


「健太、どうしたの? また熱ぶり返したんじゃない?」

「あっ、ごめん。ちょっとボーっとしちゃってたよ。なんの話だっけ」

だから時々、妬ましくなる。そしてこんなひねくれた自分が嫌になる。


「再来週の土日にさ、代々木公園でフリマがあるんだよ。それに健太も参加しないか? 歩美ちゃんも一緒に」
 
「えっ、あたしもですか!?」
 
歩美が束ねた髪を揺らして僕たちの方を振り向いた。
 
「歩美ちゃんならきっと大繁盛だ。なぁ、健太」
 
何も知らないチバは、僕の背中を叩いて、同調を誘った。
 
「そっ、そうだね」
 
 
冷たくて素っ気ない声。
いい顔なんて出来ない。
 
器用に仮面をすり替える事なんて、僕には出来るわけがない。
 
歩美も一瞬、複雑な表情を浮かべていたけれど、すぐに笑顔に戻って「あたしはいいです」と言って仕事場に戻った。


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