○●雨色ドレス●○
結局僕は、歩美に『好きな人(気になる人)がいるかいないか』を聞いてくる任務を、チバから命じられた。


「お先に失礼しまーす」
 
午後3時。本日のバイトは終了。ふぅ。
 
「おい健太。今日の夜なんか用事あるか?」
 
タイムカードを切ろうとする僕を、チバが呼び止めた。
 
「いや特に」
 
「じゃあさ、今夜ここ終わるくらいになったら来いよ。お前にいいもん見せてやるから」
 
「えっ、もしかしてデートのお誘い?」
 
僕がふざけて返すと、チバがパチっとウインクを飛ばした。
 
「まぁまぁ、見てからのお楽しみっつうことで! あとこれメールアドレスと番号な」
 
「あっ、いま赤外線で送ろうか?」
 
僕が携帯を取り出そうとするとチバが難しそうな顔をした。
 
「あー、俺機械オンチだからさ。赤外線とかよくわかんねーんだ。っつうことでまた後でな!」
 
レシートの裏には、お世辞でも上手とは言い難い文字で、アドレスと番号と
 
「テ……ベ?」
 
「ばーか、チバだよチ・バ! どっからどうみてもチバだろが」
 
 
一番下には大きく“チバ”と書かれている(ようだ)。
< 55 / 97 >

この作品をシェア

pagetop