○●雨色ドレス●○
公園に着いて、僕はいつもの“特等席”に腰を下ろした。

噴水前広場には、老夫婦が一組と、赤ちゃんをベビーカーに乗せた巨体なお母さん、それにこないだいたケバブ売りのトルコ人(ヒゲモジャ)がタバコを吸っていた。
 
どうやらこの辺りには、女はいないらしい。僕はちょっと残念だけど、どこかホッとしている胸に手をやった。まだ心拍数は早い。あの坂道を上ってきたからだけじゃないような鼓動。手のひらには、薄く汗が滲んでいた。


まだ夕方前。女は仕事なんだろうか。もしかしたらこないだは、偶然この公園に寄っただけなんじゃないか。


どうしてこんなに気になるんだ?

どうしてこんなに焦ってるんだ?

「どうして……」

「おにーさ!」

「うわっ!」

誰かが急に僕の肩を叩いた。振り返ると、ケバブ売りのトルコ人の片方があの日みたいに笑顔で立っていた。

「おにーさ、公園スキね」

「あっ、どうも」

「今日もケバブくいますか?」

(やはりそうきたか!)

「今日はいいや。お腹いっぱいいっぱい」

僕はおおげさに、お腹をポンポン叩くジェスチャーをしながら爽やかに言った。するとトルコ人は僕に一歩近づき、小声で言った。
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