○●雨色ドレス●○
「おにーさ、今日ね、カワイイ子いるよ!」

それは、新宿の池袋の渋谷のギャバ呼び込みの兄ちゃんばりのいやらしい音程とテンポで、それが絶妙に滑稽で、僕は必死に笑いをこらえた。

「ミルだけミルだけ! ミルだけならタダよ!」

(一体どこでそんな言い回しを覚えたのかは謎だけど)そう言ってトルコ人は、僕を手招きし、誘導した。


いつも通り……って言ってもまだ一回しかお世話にはなってないけど……あの黄色い車型屋台とヒゲモジャの片割れと女の子だ!

確かにいる。

まだ遠目でよく見えないけど確かにあれは女の子だ。屋台の横の石段に座って、タバコをふかしている。

「ユウ、絶対そっちのほうがにおってる!」

屋台の中で肉を焼くトルコ人が、無駄に大きく弾むような声で言った。おそらく彼は“似合ってる”と言いたいらしい。

女の子は、薄く笑いを浮かべタバコの火を踏み消すと、気だるそうに腰をあげた。
< 58 / 97 >

この作品をシェア

pagetop