○●雨色ドレス●○
ユウが小さくはにかみながら右足の親指にばんそうこを張る。

その仕草がちょっと女の子してて、一瞬ドキッとしてしまった。


トルコ人達はもう店じまいをして、帰ったらしい。公園はがらんと人気がなくなって、僕達も公園の出入口に向かって歩き始めた。

いざ二人っきりになると、変な緊張が生まれる。ユウは右足を引きずりながらチャリをひく僕の横を歩いていた。



「もしかして普段あんま履いてないの? ハイヒール」


「五分五分」

「ごぶごぶ?」

「ハイヒールとスニーカー。今日はハイヒールで明日はスニーカー、昼はスニーカーで夜ハイヒール、みたいな」

「あー、なるほど」


「……ねえ、あのさケンケン」

「なに?」


「ありがと」


「えっ、僕何かした?」

「ほら、中央線で」

「ああ、あれね。いや、ユウの方がすごいって。すごい男らしかったし!」


「ははっ、男らしいとか嬉しくねーし」

ユウが金髪を揺らしてケラケラと笑う。


僕も笑う。

やっぱり似てる。
あの女に。

髪の毛黒くしてメイク薄くして、地味にしたら――

「あのさ」

僕はユウに聞いてみることにした。

「ユウってお姉さんとか妹いる? 先週さ、ユウにそっくりな女の人を噴水前で見かけたんだ」

するとユウの笑い声が一瞬ピタリと止まった。
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