○●雨色ドレス●○
「ユウ?」

「いるよ。お姉ちゃんが一人。……好きくないけど」

やっぱり。
昨日のあの人はユウのお姉ちゃんだったんだ。

「なんで好きじゃないの?」

僕がそう口に出してから、すぐにそれを後悔することになった。

ユウはその場に立ち止まって、黙り込んだ。

地面に落ちる水滴。


ユウは、大きな両目から大粒の涙を流していた。

「ごっ、ごめん! あんま触れちゃいけなかったみたいだね。あの…その……」


「あははははは!」

「……………へ?」


泣いてたと思ったら今度は笑ってる。正確に言うと、泣きながら笑ってる状態だ。

「ケンケン焦りすぎだし。いいよ、あたしこーいうの苦手っつうか。まぁ突然泣いたあたしも悪いんだけどさぁ」

そしてユウは、チャリをひく僕より五歩前に出て、クルッと振り向いた。

「また、ね」

「あ……うん。またね」


あの涙は何を伝えてたんだろう。

あの笑顔は何を隠してたんだろう。

夕暮れの坂道。

赤いハイヒールを不格好に履いた女の子が駆けおりる。


何とも言えない違和感を残しながら。
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