○●雨色ドレス●○
そして僕は一睡も出来ずに朝を迎えた。
「おっはよー」
「……おはよ、チバは朝から元気だね」
「健太、目の下すっげぇクマだな! パンダみてーだ」
今日はチバと僕で開店を迎える。
ミントの香りが漂ってきそうなほどの爽やかな笑顔でチバが言う。僕はおもしろおかしい返しも出来ずに、ただ笑うだけで精一杯だった。
夏の朝日が背中を刺す。今の僕にはマッチの火でさえもまぶしすぎる。
「あっそうだ健太」
チバがシャッターを開けながら言った。
「今週のフリマな、歩美ちゃんも来る事になったから」
「あっ、そうなんだ。……………って、えっマジで!?」
「おいおい。そんなにビックリしなくたっていいじゃんかー。つうかこれってチャンスだよな!? 俺、頑張るからよぉ。歩美ちゃんを軽々しく振るようなやつに負けらんねーし!」
チバが綺麗に並んだ白い歯を見せて、無邪気に笑った。
ああ、チバは何も知らないんだ。
目の下にクマをこさえて、寝癖全開の両奥歯に虫歯がある、こんなどうしようもない奴が、君の憎き恋敵なんだよ。
中途半端に恋心を燃やして、一人で盛り上がって、不完全燃焼してるような奴なんだよ。