○●雨色ドレス●○
「まぁ幼なじみっつっても高校は別々だったし、連絡も全然取ってねーし。……なんだお前もしかしてホレたとか?」


違います。ホレたんじゃなくて、もう既にホレてるんです。

僕が言葉を見つけられずに黙っていると、チバがからかうように言葉を付け足した。

「ならやめとけって。確かあいつ、婚約者いるような話聞いたぜ? どこぞやの御曹司さんに、15歳の時に目を付けられたらしくてな。」


「えっ!」

僕は驚きのあまり、持っていた宅配伝票を地面に落としてしまった。


「なんだよお前、マジでホレたの? まだ会ったこともないのに」



いや違う。だってユウは別れたって

あの日“家を出てきた”って言ってたじゃないか。




でももしそれも嘘だとしたら?

作りものだとしたら?

今まで僕が見てきたユウの笑顔も歩き方も一言一言も、好きなもの嫌いなもの


全てが嘘だとしたら?

僕は一体、誰に恋をしてたんだ?


この痛くてどうしようもない心臓はどうすりゃいいんだ?


宅配伝票を拾う僕の手の甲に、涙がポツリと落っこちた。

僕いま泣いてるの?

この涙も、もう意味はないのに。

ああ、視界が揺らぐ。ぐにゃぐにゃだ。


「おっ、おい健太!?」

そして左肩に激しい痛みが走ると同時に、僕の意識の接続はプツンと切れた。
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