森守の令嬢はもふもふ大型獣人に執愛される
『エマ』

 咎めるように彼女の名前を呼べば、「仕方ないじゃない」と若かりし頃のように苦笑いを浮かべる。

 エマはいつもそうだった。ヴィリカスを相手にする時はいつだって、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべている。

「だって、私があげられるものなんて、私自身しかないのよ。でも、そうね……どうしても嫌だというのなら、これだけでも、お願い」

 そう言って、胸元から取り出したのは、一本の鍵だった。

 懐かしい気配がするその鍵が何なのか、ヴィリカスにはすぐに分かった。

『ヴィリニュスの鍵、か』

「そうよ。トルトルニアを守る鍵であり、恐ろしい笛の一部でもある。私では、この鍵を壊すことが出来ない。これを壊すことができるのは、──の血を色濃く受け継ぐ者だけ。私の孫ならば、もしかしたら……でも、もう、無理ね。今の私じゃあ、ミハウのところまで持っていけないもの。だから、お願い、ヴィリカス。何のお礼も出来ないから、せめて私を食べてちょうだい。その見返りに、孫がこの鍵を取りに来るまで、預かっていて欲しいの」
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