森守の令嬢はもふもふ大型獣人に執愛される
 エマが鍵を差し出してくる。

 けれど、もう彼女は握ることさえも出来なくなったのか、手から鍵がポロリと落ちた。

 突き返そうと咥えて持って行ってやると、エマは「ありがとう」と泣いて笑った。

「でももう、持てないわ」

 縋るように、エマがヴィリカスの目を見つめる。

 いつも凛としていた目は、少しずつ光を失いつつあった。

『ふん。お前のような婆さんを食べても、腹の足しにもならん。だが、そうだな。同じ血が流れる仲間として、貴女の最後の願いを聞き入れてやる』

「ありがとう、ヴィリカス」

 エマの前で、ヴィリカスはゴクンと鍵を飲み込んだ。
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