誰がなんと言おうと砂
「お? 八重どこいくん」
「おかーさん。お弁当忘れたから、靴箱に届けてくれたって」
「八重忘れ物多いもんねー」
「靴箱弁当はちょっとやだ」
「中じゃなくて上においてくれてんだもん。とってくる」
いってらー、と奈央たちが後ろ手で雑に手を振りかえしてくれて、授業中、他のクラスの生徒たちが先生に集中したりしてる姿を廊下から盗み見て、階段を駆け降りる。
授業中に廊下を歩くのはへんなきもち。
わかりやすい、わたしが「みんな」から外れてると思うのと似た気持ち。どこか後ろめたくてそわそわする。お腹痛くて教室から抜けたのか? そんな目で隣のクラスの生徒なんかと目があったりして、先生はあくまでみんなに勉強を教えることにただただ必死になっている。
与えたものを、飲み込むのは。その人次第だ。
あてがられても飲み込まなければ、人は容易に取りこぼす。
知識や教養は役に立つ。人を生かす。それから高めるんだって、お父さんが言っていた。
八重、八重。お前は少し人と違うんだよ、いいか、わかったらちゃんとしろ。そう、お父さんが言っていた。お父さん、わからない。わたし、十年以上たってもわからない。信号機の色をさ、何色にしたかどうか。
変な目で見られるから、当たり前を歩かないといけないんだって、周りの大人がいっていた。ふつうが一番なんだって。
ねえ、大人。
ねえ人間、
やあ、教えてはくれないか。
ふつうってなんですか。
「先輩」
キンコン、とチャイムが鳴っていた。
昇降口の靴箱に辿り着き、そこからお弁当を取ったとき。グラウンドから戻ってきたのか、一人の男の子が立っていた。青ジャージだから、一年生だ。わたしたち三年は、緑色。二年生は赤色だ。
【星田】と書かれたジャージのきみが、顎のほくろがチャームポイントの男の子が、女の子みたいな顔で、何かを突き出し、
「これあなたのものですか」
その猫目を瞬いた。