誰がなんと言おうと砂
人の姿が見えた瞬間その絵にしがみつこうとした。
上にあげた星田くんのせいでそれは叶わず、また掴もうとし、逃げられ、逃げられ。
「返して、」
「俺が拾ったんです。まだ答えを聞いてません」
「それわたしの絵なの!」
「そうですか。これはなんの絵です」
「きみには関係ない!」
ぐ、とぶつかった視線の先、星田くんが目を細める。
「祐介なにやってんの?」と後ろから誰かが声をかけたとき、彼が星田祐介ということをこの頭は理解して、その響きはなんだかとても、とてもモテそうだと思いました。
「桜」
星田くんが振り向く。
意表をつかれたのか、それでいて真顔だった。そして奪い返したら、わたしから見える「ふつう」はやっぱり、いつも通り目を閉じて、〝彼女たち〟が桜として生きていた。
「…気持ち悪いでしょ」
「…」
「怖くなったでしょ」
「…」
「わかったらもう、関わらないで」
「やっぱりか」
「え?」
「やっぱり桜だったんすね」
すっきりした。
それだけが知りたかった、と星田くんは頷いて、桜の絵を抱えて前のめりになるわたしをすり抜けて、校舎の中に戻っていく。
やがてぞろぞろと体育が終わって男子生徒が本格的に昇降口になだれ込んで来ても、その声が意図せず、理解が及ばずに、
わたしは彼の背中を眺めていた。
それは耳通りのいい声だった