誰がなんと言おうと砂
 

「ナミキチ百合(ゆり)とヨリ戻したらしーよ」

「えーっ。ショック。狙ってたのに」

「マ? 並木(なみき)はないでしょ」

「だーって喋ってるとたのしーしさー」


 午後の憂鬱、ゆらゆら、ゆらゆら。

 ノートにいくつかのぐるぐるを描いて足をぶらぶらさせていたら、お昼休み、やっぱり恋話に花を咲かせていた奈央たちの声が降ってくる。

 声は星。上から降ってくる。ぽろろん、ぽろろん。光の屑。ときめきはきらきらしている。毒は、胡麻のような形をしている。ぺちゃ。ぺちゃ。落ちたらそんな音がする。


「けど正味、百合はないじゃんね」

「アバズレビッチだかんね」

「大学生と付き合ってんじゃないの?」

「ヤリマンだー」


 目を閉じて、耳は塞げないからあうあう、と口を開いて閉じたりする。机の上、息をするのが出来ない鯉のように、打ち上げられた魚に擬態しあぐあぐと喘いでいたら、奈央にこつん、と頭を叩かれた。


「どーした? 八重。顔色わっるいよ」

「ううん、お腹痛い」

「大丈夫? 保健室ついてこうか」

「ううん、一人でいける」


 ごめん、とすり抜けたらはーい、って声が返ってきて、そのうしろで「ダメじゃん八重ナイーブなんだから」「下ネタ禁止」「ごめんー」とそんな声がした。針だ。針が降っている。
 肌に突き刺さって痛い痛い。視界はぐらぐらマーブルで。よろよろ壁伝いに階段の踊り場で座り込み、蹲ったら、階段を登ってきたカップルにとても見られてしまった。


 …頭がごうんごうん、鳴っている。

 なんだか、鐘の中にいるみたい。






「踏みますそんなとこにいたら」






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