平凡な私の獣騎士団もふもふライフ3
……アティーシャ?

聞き覚えのない名前だ。それもあって彼は、念のためリズに改めて名前を確認してきたのか。

ここまで話してくれたシモンは、やっぱり悪い人には思えなかった。

「あなた、どうして山賊紛いなことをしているの?」

リズは、より戸惑いが込み上げた。

「生きるためさ」

シモンが、ちょっと皮肉そうに口角を引き上げて答えた。

「お姉さん、俺ね、居場所がないんだ。どこにもね」

「どこにもって、そんな……」

「ううん、本当のことだよ。死んでしまえと望まれて、山に捨てられた。このまま死ぬんだろうなと思っていたら――山の動物たちに助けられたんだ」

それから山での暮らしが始まった。

獣たちが面倒をみてくれて、見よう見真似で生きる手段を身に付けた。けれど人間だから、生きるために金銭を奪って衣食を得た。

そうしながら、町や村沿いの連なる山々を転々とする生活。

「そうしたら一ヶ月と少し前、いきなり山狼の一頭に異変が起こった」

シモンの真剣な切り出しに、リズはハッとして聞き入った。

それは突然のことだったという。夕刻、今にも降り出しそうな雨雲の下を歩いていると、近くに落雷があった。

すると、どこからか黒い霧が漂ってきた。

山の動物たちが逃げ出して、山狼たちが呻った。不穏な気配にシモンもあたりを警戒した時、黒い霧が一頭の山狼をみるみる呑み込んだ。

< 107 / 192 >

この作品をシェア

pagetop