幽霊屋敷に挑む魔女
幸い命に別状はなかったけど、サッカー選手を夢見ていた彼の夢は絶たれた。
刃物は彼のアキレス腱を斬りつけた。
彼の呻き声、泣き声は今でもはっきり覚えている。
それからは、警察が駆け込んで犯人はあっさり捕まったが、私の心には絶対に消えることのない傷が刻まれた。その証に、何度もこの時の事件の夢を見てしまう。
その度にふと感じる。もしかしたら、あの事件は私の力で防げたんじゃないかと…
当然、私が犯人に立ち向かう、と言う訳ではない。私がみんなと違う所。人の心を写す蝶が見える力。その力で犯人を感知する事ができたんじゃないのか?
って、過ぎてしまった事に対して今更、ああすれば良かったんじゃないのか?って考えても意味はない。
そう過去を悔やんだり、そう考えるなら今、この力を使って、何か日常を脅かす悲劇が起きた時に全力を使って立ち向かえば良い。
事件の後、とある刑事が私に言ってくれた言葉が大好きな彼を傷つけられ絶望に落ちたわたしを救ってくれた。
その言葉を心の中で唱えてみる。
そうすると、悪夢を見た後味の悪さが薄れていき、私はベッドに戻った。
それから、スマホのタイマーがなるまでは怖い夢は見なかった。

『行って来ます!』
制服に着替えた私は、家族と一緒に朝食をとり軽くメイクをしてから学校へ向かった。
桜が咲き始め、段々と暖かくなる日々。
今日も朝から暖かい。
学校へ向かう道で
『桜、おはよ!』
親友の夏美が私の手を握った。
『夏美!もう、びっくりしたじゃん』
『だって、桜を驚かすの楽しいもん』
『なにそれ、意味わかんないよ』
と、顔を見合わせて私達は声を出して笑った。
夏美とは、中学2年からの仲だけど、私の持つ特異体質の事は知らない。私の特異体質について知っているのは1人の刑事だけ。
『夏美、それより今日提出の課題やってきた?』
私達は手を繋ぎながら学校へ向かう。
『うーん、難しかったから所々、空欄だらけ』
『わからなかったら、教科書で調べなさい。
日本史なんだから、教科書読んだら答え全部載ってるでしょ』
『やーだ。めんどくさいし、それに、私が日本史弱いって知ったら、日本史の松井先生とマンツーマンの居残り授業できる可能性有りかも』
そう言って夏美は恥ずかしそうに笑いながら私の肩をバシバシと叩く。かなり痛いが、私も笑いながら
『松井先生の事、本当に好きだね』
と、夏美の頭を撫でる。
夏美は高校に入学してすぐに日本史や世界史を担当している松井先生に一目惚れした。
確かに夏美が言うように、松井先生は爽やかな雰囲気に柔らかい表情。それに反し、バスケ部の顧問でたまに練習指導でダンクシュートをした時に見えた逞しい腹筋に鼻血が出そうになったらしい。ちなみに、夏美は松井先生目的でバスケ部のマネージャーをしている。
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