幽霊屋敷に挑む魔女
『だから、噂だってば!そりゃあ、確かに姿は誰も見てないけど。じゃあ、私はもう戻るからね。どのクラスに来るのかわからないから準備しないといけないから!』
そう言って千秋さんは教室に戻り先程、一緒に話をしていたグループに混ざりメイクポーチをカバンから取り出した。
『ふん、バカバカしい。たかが噂なのになんでみんな美化しすぎるわけ?もしかしたらその転校生がゴリマッチで顔のほりが深く、鼻が低すぎてもみんなキャアキャア言うのかな』
『でも、転校生なんて滅多にいないから、転校生ってだけでもみんなは盛り上がっちゃうんだよ。私もイケメンやゴリマッチとかはさておき、ちょっと気になるかな』
『なっ!さ、桜から男子生徒が気になるって口にするなんて珍しい!前、先輩から告白された時にキッパリと断っていたのに。もしやイギリス効果か!』
『ちょっと!なんで梅川先輩に告白されたの知ってるの』
『だって、あの日たまたま理科準備室のまえを通ったら、声が聞こえちゃったんだもん。
でもさ、梅川先輩って当たり前だけど桜のLINEなんて知らないよね。えっ、もしや、下駄箱に入ってたの?ラブの手紙が』
『はいはい、もう過ぎたことを掘り返さないで。まあ、確かに私は告白されるまで梅川先輩なんか知らなかったからびっくりしたし、よく知らない先輩と付き合うなんて普通はしないでしょ?はい、もうそれだけ。私の話は終わり』
ニヤニヤする夏美を無視して教室に急ぐ。
それにしても夏美に言われるまで思い出しもしなかったな。同時に苦い気持ちが胸に広がっていく。
確かに初めて話す(正確にはいきなり知らない先輩から声をかけられたが正しい)人と付き合ったりはしない。それは、私以外のみんなも絶対そう。それに、例え知っていて、かっこいいなって思っていても私は付き合ったりはしない。どうして、異性に対して好きって思うと小学校時代に起きた事件を思い出してしまう。サッカーが得意だった彼。私は当時彼が好きだった。でも、事件のせいで怪我を負い二度とサッカーができなくなった。
別に、私がその事件を引き起こした訳ではないけど、彼の事を思い出すたびに、異性に対して一線を引いてしまうし、もう一つの痛ましいことまで思い出してしまう。そうやって痛い思い出が鮮明になればなるほど私は右瞼に触れる。触れないと気が済まないから…
『ん、桜?どしたの?目、痛いの?』
夏美が心配そうに私の顔を覗き込む
『ううん、大丈夫だよ。なんだかちょっと痒かっただけ』
笑って私は誤魔化した。
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