光を掴んだその先に。
『あいつの家族って皆殺しにされたらしいぜ』
『それオレも聞いたことあるよ。なんとか銃殺事件って名前の』
『あぁ、でもその事件はぜんぶ隠されたとかなんとかでさ』
ヒソヒソと隠すことをしようとしない陰口。
それはあえて聞こえるようにしているからこそ、時たま物騒なワードは大声で放たれる。
『ねぇ絃織くん。よかったら私たちと一緒に帰らない?』
『あたしたち絃織くんと仲良くなりたいの』
『いつも1人でしょ?よかったら一緒に遊んだりしたいな』
ランドセルに教科書を詰めていた少年の机を、3人組の少女たちが囲んだ。
こうして声をかけてくるときは何かしら裏がある。
そう考えられるようになった少年は、その感性がだんだんと裏社会に溶け込んできている証だった。
よかったらって、なにがだ。
なにがよかったんだ。
『帰りみち反対でしょ』
面倒だからと一番最初の質問に返答して、カチャッとランドセルをロックして絃織は背負う。
そして教室を出た。
『なにあれ~』
『格好いいのに感じわるーい』
残された教室から聞こえる声は、たったいまの女のもの。
もうそうなると奴らは“少女”なんて可愛い言葉ではなく、“女”という生々しさを含んだものに変わる。
たとえ年齢が子供だとしても中身はもう“女”なのだ。
『おかえりなさいませ、お坊ちゃん』
『ただいまチヨさん。でもその呼び方はやめてほしいな』