光を掴んだその先に。
この老婆は古くから天鬼家に使える使用人らしい。
少年がこの場所に引き取られたばかりの頃からずっと居たため、いまでは祖母のようにも思っていた。
屋敷に入ると絃織はまず手を洗って自室へ向かい、ランドセルを下ろして香水を少しだけ付ける。
そしてすぐに愛しい存在の元へ。
『なぎっ!』
『ただいま絃。今日もチヨさんといい子にお留守番してた?』
『うんっ!』
本当かなぁ、なんて微笑みながらクレヨンを片手にお絵描きしている幼子をひょいっと抱っこ。
宿題なんか後回しだ。
『今日は何して遊ぶ?』
『おすな!』
『砂遊び?そっか、お山つくるって約束してたもんね』
『うん!』
“少女”とは、こういう子のことを言うのだろう。
純粋無垢で屈託のない眼差し。
嘘をつかない綺麗な心。
こうして話しているだけで、まるで自分さえも浄化されてゆくよう。
『あっ、絃!泥ついてるから目擦っちゃ駄目だってば!』
『いたいぃぃ…っ』
『あーもう。ほら抱っこ』
砂場がある公園は、屋敷からそう遠くはなかった。
広々としている公園は、普通に考えれば子連れの親子や子供たちが散らばるはずなのだが。
そこにはふたりの小さな兄妹の姿しかない。
それはやはり天鬼組の本拠地が近くにあるからだろう。