光を掴んだその先に。




『どう?取れた?』



パシャパシャと水道水で繊細な目を優しく洗う。

パチパチと瞬きをさせてコクコクうなずく絃は、大泣きをしたあとだからか大人しかった。


少年の腕に抱かれて、今度は眠くなってしまったらしい。



『ふっ、泣いたり寝たり忙しいヤツ。…帰ったらお風呂に入らせないと』



おんぶ紐も抱っこ紐も卒業したというのに、まだまだ甘えたがり。

そして絃織もまた妹には甘い兄のようだった。


ぎゅっと腕に抱えて公園を後にしようとしたとき、出口付近にヒソヒソとこちらを監視する影が幾つか見えた。



『…絃、今日はこっちの道から帰ろうか』



クルッとUターンし、勢いよく走る。


やっぱりまだおんぶ紐は必要だった。

少年の小さな腕では抱きかかえながらでは上手く走れない。



『逃げたぞ!追えっ!』



あいつらは誰だ…?

そこには天鬼組の者ではない、ただならぬ空気感があった。

まるで俺たちをずっと監視して、この機会をずっと狙っていたかのように。



『はっ、はぁっ…!』


『なぎ?どこいくの?』


『大丈夫、俺が絶対に守るから。…そうだ絃、お歌をうたおうか』



赤とんぼ、よく歌ってたでしょ。

ほら夕やけ小やけだよ───なんて。


こういうときに歌ってあげられない自分が悔しかった。



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