光を掴んだその先に。
這うように逃げて行った1人、それは左頬にナイフ痕のような傷がある男だった。
そしてそれは俺たちに深い悲しみの繋がりを与えた男。
それを、見慣れた男は逃がした。
『おやっさん…っ、絃がっ、絃が…!!俺のせいで絃が…っ!!』
『絃織』
静かな声だった。
茜色の空に赤いチェック柄は溶け込んでいて。
それは血に染まった太陽に見えた。
『いま、絃は拐われてない。息もしている、生きてる。…結果、守れたと思うか』
どう答えたらいいか分からなかった。
確かに生きている。
いま、生きているんだ絃は。
すぐに部下が運んで行ったから、もう手当てはされているはず。
───でも、守れた…?
あんなに叫ばせて傷つけて、でも息をしている。
それは守ったと言えるのか…?
それなのに何故、このとき少年はうなずいてしまったのか。
それは少年にも理解ができなかった。
それでもただ確かに、コクンと1度首を落とした。
『───守れてねえんだよ』
『っ…!』
ガッと胸ぐらは掴まれて、わずか9歳の少年の身体は軽々と持ち上げられる。
『これは守ったとは言わない。…守れなかっただろうが、お前は絃を』
現に少年は身体を震わせて、足を動かせないでいた。
どうして絃がいま息をしているか、俺がこうして生きているか。
それは俺が守ったからじゃない、この人たちが駆け付けてくれたからじゃない。
『相手が、たまたまてめえらを殺さなかっただけだ』