光を掴んだその先に。
14年の空白
「…やっちゃった……」
何度目だっけ、この道。
だいたい住宅街って角が多いんだよね…。
右行っても左行っても同じような道ばかりだし、目立つ物もとくにないし…。
「スマホも忘れた……。もー!ここどこっ!!」
春休み期間、特別講習が丸1日あるだなんだ嘘を言って屋敷を抜け出してから3時間は経ってるはず。
さすがに私にだって休みたいときはある。
毎日毎日お稽古だなんて大人しくするようなキャラでもないしっ!
それに那岐は最近優しいから、そんな優しさに甘えて上手く使ってしまった。
だからこそ罪悪感がじわじわ生まれてる現在…。
「どうかしたの、お嬢さん」
「わっ、」
そんな絶賛迷子中の私に声がかかった。
こんなときに限ってスマホをも忘れて、とりあえず公衆電話はないかと探していた1人の少女に声をかけてくれるなんて。
なんっていい人なの…!
「迷子?ここら辺の子なの?」
「はい、ぜひ駅まで案内してもらえると助かるんですが…」
「そうしてあげたいとこ山々なんだけど、実は俺も最近こっちに引っ越してきてさー」
「困ったねぇ」なんて軽く笑って隣を歩く男は、ナンパというわけではなさそうだった。
黒の生地に花柄が描かれているような、これまたシックであり派手でもあるシャツを着ている彼。
ボタンを緩く留めた首筋には、シンプルなシルバーネックレスがひとつ。