光を掴んだその先に。




呼ばせて?なんて言われてしまえば、うなずくしかなくなる。


「決まり」と、パチッとウインクをした陽太は俊吾よりぜんぜん様になってしまっていた。


年上だから敬語とか言ってるけど、それならどうして那岐や俊吾には最初からタメ口だったんだってツッコミは自分の中にしまっておこう。



「それでここが共同のお風呂だよ」


「えー、男たちとむさ苦しいなか入らなきゃなの?」


「うん。上のひとは個人のものがあるらしいけど…」



それに当たり前だけど私も。

でも陽太はまだ下っぱだから、この共同のお風呂だ。


嘘ついて稽古をサボった罰として、こうして1つずつ案内してあげている私。



「ねぇ、絃ちゃんって絃織さんと知り合いなの?いつから?」


「えーっと…けっこう前から」


「絃織さんってどんな人?やっぱ強いの?」


「私もまだぜんぶは分かってないけど…でもすっごい強いのは確か!」



陽太はどうしてか那岐の話ばかりを聞いてくる。

確かにいちばん若い幹部だし、謎多き人物だし、なに考えてるか分からないし…。


それにしても那岐をいきなり名前で呼ぶなんて勇者だと思った。

この人って誰にでも人懐っこい性格なのかなぁ。



「…えへへ」


「え?なんか面白いことでもあった?」


「なんでもなーい」



そしてこれは私と那岐だけの秘密。

そっと額の傷へ触れると、笑みがこぼれるようになった。


そんな傷も大好きになった。



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