光を掴んだその先に。
初めて入る施設内には、子供たちが描いたのだろう絵や日々の写真が壁中に貼られていた。
そして『どうしてもっと早く迎えに来てくれなかったの』と言った絃は。
この場所で手を離され、遠退いてゆく幼い泣き顔と重なった。
『…離して。私は行かない』
そう言えるようになって欲しいと願った、いつかの自分。
少女は強く優しい子になっていた。
『那岐さん、これ…、絃ちゃんが園に来たばかりの頃に描いたものなの』
そう言って1枚の画用紙を差し出した保母は、かつて園長の隣に立っていた女。
昔よりふくよかになっている体型が14年という歳月を表してくれる。
『最初は毎日泣いてたわ。なぎ、なぎって言ってね、こうしてクレヨンで毎日描いてた』
そこには手を繋いで笑う少年少女の絵。
大きな丸の中に目を描いて三角の鼻、笑っている口。
髪の毛は黒色が少々大雑把に流されるように描かれていた。
『…これ、貰ってもいいですか』
『もちろんよ。いつかあなたに渡したいと思っていたの』
『ありがとう…ございます、』
上に立つようになってから、こうして誰かに敬語を使うことは決まった人間以外、珍しかった。
だが、そこにはかつての自分がいたのだろう。
そして保母の眼差しもまた、少女の手をぎゅっと握って離さない少年を見つめるものだったから。
『帰るぞ俊吾』
『えええっ!?お嬢を連れて行かなくていいんすか!?』
『無理やり連れてくわけにはいかねえだろ。もう俺に手引かれるガキじゃねえんだ、あいつは。…自分で決めさせる』
『おおおお…!痺れるっす那岐さん…!』
言うようになった───と、男はため息を吐くように微笑んだ。