光を掴んだその先に。
男は目を押さえながら佳祐から離れた。
その押さえた場所からは、ポタポタと赤い血が地面へ滴っていて。
なに……?
なにが起こったの……?
男の目から落ちて赤く色づいたそれへと、目を凝らして見つめてみれば。
「……い、し…?」
石、だ。
どこにでもある、平凡で普通の石。
大きくもなく小さくもなく。
よく登下校時に蹴りながら帰るような、そんな石が落ちていた。
「…なに……しやがる…ッ!!」
その先に立っている男は見慣れたスーツ姿。
思わず我慢していたものが込み上げてきそうになったけど、その空気感に言葉が出なかった。
「俺は煙草は吸わねえからライター持ってなくてよ、炙るの忘れてた。ツイてたな桜木」
フーフーと息を整えるように、青筋を立てて瞳孔を開いている那岐。
キレている、怒っている、機嫌が悪い───そんなありふれた表現方法は軽すぎる。
「知ってるか?石ってのはナイフになるんだと」
低い声だ。
殺すだろう。
確実に那岐は今日、人を殺すだろう。
それを止める術も理由も思いつかなくて。
この世界は常に誰かの命の上に成り立っているような、綺麗ではない世界。
「はは、テメェはあのときのガキか……ッ、大罪人の息子がよォ…!!」
大罪人……?
桜木の言葉が気になったけど、今はそれどころじゃない。
気づけばすぐ傍に那岐は立っていた。