光を掴んだその先に。




「あっ、那───」



スッと、物陰に隠れてしまった。

それは湯上がり、いつものように那岐の部屋へお邪魔しようと向かっていたとき。


珍しく誰かと話している彼は、“那岐”と呼ぼうとした私の声には気付いていないようで。



「ずっと隠し通すつもりなの…?」



その声は雅美さん。
那岐と雅美さんが何か2人で話しているらしい。

……なんか、モヤモヤする。



「あの子はもう子供じゃないわ」


「…それは俺が一番知ってる」


「知ってない。知ってないわ、絃織ちゃんは何ひとつ」



なにを話してるんだろう…。
隠し通すって、なにを…?

誰の話をしてるのかも分からないし、そもそも喧嘩っぽい雰囲気だ。



「知らないから駄目なの。子供じゃないから駄目なのよ」


「姉さん、俺は───」



那岐の言葉が止まった。


そして私も思わず自分の口を両手で塞いでしまった。

なぜそんなことをしているのか、それはそうしなければ「あっ」と声を出してしまいそうだったから。


だって、片方は片方の腕の中に入っちゃったんだもん…。



「…どういうつもりだ」


「好きなの、…ずっと好きだった」


「…俺は姉さんからしたら弟みたいなものだろ」


「だったら…っ、だったら絃織ちゃんこそあの子は同じじゃないの…?」



< 216 / 349 >

この作品をシェア

pagetop