光を掴んだその先に。
「私…、那岐にいっぱい我慢させてるね…」
那岐を見て悪態をつく男たちはやっぱりいるのだ。
若いし謎だらけで、それでいて刺青も煙草もしないから「覚悟がねェ野郎だ」なんて言ってる上層部が。
そういうの、たまに見る。
でもそれがぜんぶ私のためで、私が嫌だと泣いたから彼は心に誓って、でも他の人に悪く言われるくらいなら…。
「那岐の好きに生きればいいんだよ…」
好きに生きればいい───それは、刺青だとか煙草だとかそれに対してじゃない。
もし本当にそんなことしたくないなら、好きでもない人と結婚なんかしたくないなら。
そんなのやめちゃえばいい。
「那岐がやりたいように、すればいいよ。言うこと聞く必要なんかない…、」
やめてよ、縁談なんか。
断ってよ。
那岐は那岐だって言ったのに…。
ちがう、そんな私の気持ちが一番に彼を縛ってるんだ。
「…やりたいようにしていいのか」
赤信号で停まった車。
ラジオも音楽も流れていない車内は相変わらず静かで、どこか緊張してしまう。
「うん、我慢なんかする必要ないよ」
「…本当にいいのか。我慢しなかったら…ぜんぶ壊れるぞ」
「え……?」
目の前に見慣れた腕が伸びてくる。
ふわっと広がる匂い、安心と共に生まれるドキドキ。
ハンドルを握っていた手が私のシートへ囲うように回った。
整った顔が、鋭く見つめる眼差しが私へと重なってこようとするから。