光を掴んだその先に。

隠されていた過去





「おい聞いたか?那岐さんの婚約者だってよ、あの子」


「かわいい子じゃねェか。どうにも大企業の娘さんらしいぞ」


「おお、那岐さんも中々やるな」


「そりゃ那岐さんほどとなれば普通だろ」



邪魔だ。

そこは私の部屋から洗面所へと続く廊下だというのに。

そんなところに屯われて、ひっじょーに邪魔だ。



「退いてっ!ここ道なの!人通るのっ!!」


「お嬢っ!失礼しました…!」



まったく、どいつもこいつも鼻の下伸ばしちゃってさ!

ここに若い女の子はもうひとりいるでしょーがっ!


……なんて思うけど。



「おはようございます絃ちゃん。朝食なら準備してありますので」


「お、おはようございます……、桜子ちゃん…」



歳が近いから。

それに私は組長の娘で、那岐の馴染みだからと、いつの間にか“ちゃん付け”で呼び合うようになっていて。


でもまだ敬語はやっぱり取れない…。



「おいしいっ!このだし巻き玉子、めちゃくちゃおいしいっ」


「さっすが絃織さんの婚約者だよねぇ。花嫁修業とかもう要らないんじゃないの?」


「婚約者じゃないよ!まだお試しっ」


「いや、あんなのもう決まったようなものでしょーよ」



陽太はそう言うけど、そうなられたら困るのは私だ。


でも料理も上手で別嬪さん、気立てもいいし、おしとやかで頭も良い大和撫子なお嬢様だなんて。

……絶望的すぎるぞ私。



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