光を掴んだその先に。




“これ、ちゃんと撮れてるのかなー?”



再生ボタンを押すと、最初の数秒間は中庭を右から左へ移動させたものだった。

小鳥の鳴き声や車の音が微かに聞こえる程度の音で。


そして5秒くらい経ったときに聞こえた声があった。



「…お……かあ、さん……?」



顔は映ってない。

景色ばかりのもので、しかしその人は縁側に座っているのだろう。

ぷらんぷらんと揺れる足はちゃんと見えた。


それは女性のもの───。



“機械音痴だしバカだから、こういうの苦手なんだよねぇ…。でも買って良かったなぁ”



とてもリアリティーあるつぶやきだったからこそ、親近感が湧いた。

“はいおわりっ!”と、言い終わる前に切れた動画。



「……お母さんだ…、」



ぜったいそう。
絶対にそうだ。

それだけはなんとなく分かってしまう。

なんにも確証はないけど、それは親子だからかな。


このビデオカメラをお母さんは過去に手にしていたのだ。

こうして彼女は動画を撮っていた。



「じゃあ次は長いほう…」



長いって言っても1分半しかない。

こんなのきっとすぐ終わっちゃうだろうけど、30秒よりはちょっとだけ長いから。

そのぶんお母さんの声を聞いていられるんじゃないかって。



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