光を掴んだその先に。
いたくていたくてたまらない。
冒険の書なんて、そんなものはない。
私たちに新しいセーブ場所は、ない。
『…冒険の書は…俺たちには遠すぎる』
あぁ…、彼はちゃんと言ってくれてた。
確かに遠すぎる。
というより、私と那岐が同じ冒険をすること自体が間違っていた。
私たちはそもそもルートが違って、一緒のルートにはなれなくて、なっては駄目。
『…本当にいいのか。我慢しなかったら…ぜんぶ壊れるぞ』
壊れないために、壊さないためにあなたは頑張ってくれてたの……?
それは引き取ってくれたお父さんへの恩返し…?
「まだそんなとこにいたのか、お前ら」
「絃織さん…!絃ちゃんが痛いって大泣きなんだけど…!!」
「…!」
いま会いたくなかった。
いま顔を見たくなかった。
そうやって当たり前のように駆けつけて。
本当にすぐ帰ってきた。
というより、まだあれから30分も経ってないはずだ。
「てめえが泣かせたのか?」
「わっ、なんでそーなんの!ビデオカメラ観てから死んだようになっちゃったんだってば」
「ビデオカメラ…?」
那岐は陽太の胸ぐらを容赦なく掴んで問い詰めるけど、すぐに離して私に触れてくる。
「絃、どこが痛む?傷か?」
ふわっと広がる香水の香り。
何回と、彼におでこの傷を見せてきた。
本当に嬉しかったんだよ。
この傷がお揃いで、すっごく嬉しかったの。
「いたい…っ、いたい、…なぎ、いたいっ、」
「…あぁ、わかってる、」
わかってないよ。
那岐はなんにもわかってない。
傷なんかいたくない。
こんなのとっくに塞がってる。
赤ちゃんの頃の痛みだって忘れてる。