光を掴んだその先に。
桜子side




「なっにあれ~。嵐のように現れて嵐のように去って行ったんだけど」



静まり返ったその場所に、天道 陽太の軽々しい声だけが違和感を消すように反響した。

遠退いてゆく絃織さんの腕には私じゃない女の子が抱えられている。


それを“抱っこ”だなんて可愛いもので見つめることは出来なかった。



『悪いが俺はお前と結婚する気はない。もし上の命令でそうならざるを得なかったとしても、
俺はお前を一生かけたって好きになることは……ない』



せっかくのお祭りなんですから楽しみましょうよ、なんて返しができるほどに私は大人ではなかった。

淡々と告げられたことで、腕を掴んでいた手は綺麗にスッと離れてしまって。


それはまだ屋敷を出て曲がり角を曲がった直後のことだった。



「はーっ…もう!無理!」


「……は?」


「だいたい無理なの!こんなのは!」


「あれ、君ってそんなキャラだっけ?」



これはもう諦めるしかなかった。

いや、諦めるとは少し違うかな。

私の一目惚れから始まった片想いは、そもそも始まるフィールドすら用意されていない状態で。


親を使って身分を使って権力を使って、どうにか彼を自分のものにしたかったけれど。

というか、そこまですれば手にできると思っていた。


今までお金で手にできなかったものなんかないから。



『…好きな人が、いるんですか?』


『好きなんてものじゃない。好きって表せるほど綺麗でも簡単でもないが。…けど、すきだ。』



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