光を掴んだその先に。




そんな絃織さんらしくない言葉を言わせる人は誰なのかってずっと思っていた。

でも薄々気づいてたりして。

だって絃ちゃんを見つめる眼差しだけは、どんなものよりも違うから。


知ってますか?

絃織さんが誰かに呼ばれてから行動しないのって、絃ちゃんに対してだけなんですよ。



「天道さん、私とお祭り行きません?今日すっごく大食いしたい気分なんです!」


「大食いって…。君はもっとおしとやかな子だと思ってたんだけど俺」


「…人は見かけによらないんですよ」



そう、見かけによらない。


あの人は上から命令されれば淡々とこなしてしまうような人だと思っていた。

だって18歳で幹部になっちゃうなんて、それくらい仕事に忠実でまっすぐなんだろうなって。


でも、違った。



『俺はいつも、手を洗ってたんだ。学校から帰ると』


『手…?』


『あぁ、赤ん坊がいてな。まぁ普通に考えれば当たり前のことなんだが』



赤ん坊……?


突然そんな話をしてくるものだから、思わず聞き入ってしまった。

だって見たことないくらいに優しい顔をしていたから。



『それで、部屋に向かってランドセル下ろして…必ず香水を付けてた』



そして彼は、まるでおとぎ話のように1人の少年と1人の赤ちゃんの話を聞かせてくれた。


毎日ふたりでいたと。

毎日抱っこしておんぶして、本当の妹のように可愛がっていて。


でも本当はずっと───…



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