光を掴んだその先に。
ショッピングモール内の休憩用に置かれたベンチ。
ソファーのような造りになっていてポツリポツリと幾つかあるため、他のカップルさんたちも座っているわけで。
「湊くんっ、早くしないと映画始まっちゃうよ!」
「少し遅れたって大丈夫だって。それに見逃したら家でも後々見れるし」
目の前を通りすぎた男女もまたカップルさんだ。
彼氏の腕をぐいぐい引く彼女さん。
「映画館で見るから良いのに!家じゃ意味ないの!!」
「…まぁ確かに家だと映画どころじゃなくなるしね?ねぇ柚」
「なっ、ななななにがっ!?」
そんなラブラブな会話を無言の真顔で見つめる私と那岐。
……気まずい。
ひじょーに気まずいぞ絃…。
「…絃織くん、」
なんて、つぶやいてみる。
さすがに似合わないかと笑ってしまった。
“くん”ってキャラじゃないし、絃織くんってちょっと可愛くなってしまうからギャップがすごい。
「…なんだよ」
「わっ、」
ぐりぐりと頭を寄せてくる那岐。
ふわっと香る、懐かしくて大好きな匂い。
「もうっ、くすぐったいよ那岐!」
「…もう1回いまの、言え」
「え…?」
「……絃織くんっつってたろ」
どうやらしっかりと聞こえていたらしい。
そう改めて言われると恥ずかしい…。
那岐も私に寄りかかるようにしてつぶやいているから、きっと彼も照れていることだ。
「いおり、くん。あははっ、やっぱり変なの。…絃織くん、那岐くん」
こうして呼ぶと同級生になってしまった気分だ。
同い年だったなら、こう呼んでいたかもしれない。