光を掴んだその先に。




ショッピングモール内の休憩用に置かれたベンチ。

ソファーのような造りになっていてポツリポツリと幾つかあるため、他のカップルさんたちも座っているわけで。



「湊くんっ、早くしないと映画始まっちゃうよ!」


「少し遅れたって大丈夫だって。それに見逃したら家でも後々見れるし」



目の前を通りすぎた男女もまたカップルさんだ。

彼氏の腕をぐいぐい引く彼女さん。



「映画館で見るから良いのに!家じゃ意味ないの!!」


「…まぁ確かに家だと映画どころじゃなくなるしね?ねぇ柚」


「なっ、ななななにがっ!?」



そんなラブラブな会話を無言の真顔で見つめる私と那岐。

……気まずい。

ひじょーに気まずいぞ絃…。



「…絃織くん、」



なんて、つぶやいてみる。

さすがに似合わないかと笑ってしまった。


“くん”ってキャラじゃないし、絃織くんってちょっと可愛くなってしまうからギャップがすごい。



「…なんだよ」


「わっ、」



ぐりぐりと頭を寄せてくる那岐。

ふわっと香る、懐かしくて大好きな匂い。



「もうっ、くすぐったいよ那岐!」


「…もう1回いまの、言え」


「え…?」


「……絃織くんっつってたろ」



どうやらしっかりと聞こえていたらしい。


そう改めて言われると恥ずかしい…。

那岐も私に寄りかかるようにしてつぶやいているから、きっと彼も照れていることだ。



「いおり、くん。あははっ、やっぱり変なの。…絃織くん、那岐くん」



こうして呼ぶと同級生になってしまった気分だ。

同い年だったなら、こう呼んでいたかもしれない。



< 292 / 349 >

この作品をシェア

pagetop