光を掴んだその先に。




「でも今は…那岐がいいな」


「…ん。」



いつか名前で呼べる日はくるのかな…。

雅美さんも桜子ちゃんも名前で呼んでいて、そんなものがいつも羨ましかったけど。


でも“那岐”っていう呼び方も実は気に入ってたりして。



「絃、」


「…?」


「俺と場所、交換しろ」



そんな中、端に座っていた那岐は立ち上がって私を隅っこに座らせた。

するとゾロゾロ向かってきた男子高校生集団が同じソファーに少しの隙間を空けて座ってくる。


そして私を隠すように壁を作ってくれる那岐 絃織(もうすぐ24)。



「…かっこいい……、」



エスカレーターに乗ってるときも必ずうしろを守ってくれて、人とぶつかりそうになったときはさりげなく腕を引いてくれて。

そんなエスコートはきっと那岐だからこその技だ。


そしてどうやら声に出てしまっていたらしい。

ずっとずっと思っていた言葉が、気づけば小さく響いていたらしい。



「あっ、いやっ!そのっ、えっ声に出てた…!?出てたね……!?」



那岐の頬はほんのりと赤く染まっている。

照れたように目を逸らして、スッと甘く見つめてきた。



「へへ…、こ、こういうの初めてだからどうしたらいいか分かんなくてっ」



本当は周りのカップルさんみたいに手繋いだりしたいな、とか。

写真撮ったりプリクラ撮ったりしたいな、とか。


そーいうの思ってたけど、今の私はこうして2人で座ってるだけでいっぱいいっぱい。



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