光を掴んだその先に。
那岐side




その記憶は絃とのものよりずっとずっと前だから、もう忘れているとばかり思っていた。

だが俺が“那岐”として生きている以上、それは絶対に忘れてはいけないものだ。


あの15年以上前の惨い事件だけは。



「俺っていつから絃織さんに嫁いじゃったのさ。そんな趣味ないんだけど?」


「とぼけんな。…俺は最初から気づいてた」


「……へぇ」



俺の親族に同い歳くらいの子がいると、ずっとずっと昔に実の母親から聞かされていて。

その子は恥ずかしがり屋だからあまり顔は会わせられないかもしれないの───なんて、言われていたが。


俺はそいつと話してみたくて、1度だけ挨拶をしたことがあった。



『僕、いおりっていうんだ。よろしくね』



挨拶は返されず、眼鏡のそいつは走って行ってしまって。

そのうしろを追いかける母親が『ひなた』と、呼んでいた。



「那岐って…どういうこと…?いまは絃織ちゃんだけのはずでしょう…?」


「それがねぇ、公に出なかった生き残りがもう1人いたって言ったらどうします雅美さん」


「っ…!そんな、こと…」



あぁ、あり得ない。

死んだはずだ。


俺以外、皆殺しだったはずなのだ。



「俺、ゲームがすっごく好きで昔っから引きこもりボーイだったんだよね。ソフトのハッキングとか超好きでさ」



なんの話かと思えば、楽しそうに話し出す天道に誰もが黙って言葉を待つしかなかった。


もう、これで知られるのか───…。


絃の顔が見れなかった。



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