光を掴んだその先に。




「……七夕ゼリー…かな、」


「七夕ゼリー…?」


「そう。中に星の形に型抜かれた杏仁豆腐があって、ゼリーも青色で好きだったなぁ俺」



まるでそれは最後の走馬灯。

思い出を甦らせる天道は、初めて心からの笑顔で笑ったような気がした。



「私は……カレーが好きだったよ」


「カレー…?そんなの普通すぎるじゃん」


「うん、カレーってたくさん量が作られるから…そのときだけおかわりが出来てね、だから私はそれが…すごく好きだった」



それは俺も知らない絃の話。
俺が見れなかった14年間の話だ。

友達をたくさん作れ、好き嫌いせずちゃんと食べろと見送ってからの生活はずっとずっと聞きたかった。



「施設はオモチャとかゲームとか滅多に買ってもらえないから…そうやってデザートとか出ると嬉しいの、…わかるよ」


「…わかったようなこと言うなよ。絃ちゃんはこんなに広い屋敷でみんなに囲まれて生きてたくせにさ、」


「まだ…、1年とちょっとだよ」



「え、」と、天道の声は小さく響いて消えた。



「私も……施設で育ったよ、」



そして絃は、ポロポロと涙を流す。

今までずっと我慢していたのか、それともこらえきれなくなったのか。


しかしその涙は命を狙われる恐怖に怯えるものではなかった。



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